堀口大學訳
昭和31年2月20日発行 平成9年10月30日70刷
新潮社 ¥540(税別)
言わずと知れた『星の王子様』の作者、サン=テグジュペリの作品
雑誌などで読書通がお勧めしている記事なども目にしていたので、気になっていた一冊でした
が…
残念
私は虜になることができませんでした
というのも、『星の王子様』のイメージから伸びやかでロマンチックな世界を想像していたからなのでしょう
内容としては、パイロットでもあった作者の経験を活かし、危険を冒して大陸間の夜間飛行に挑む者たちの使命感に満ちた仕事ぶりが描かれています
ところで、ひるがえって思うに、それらの幸福の聖殿は、蜃気楼のように、必ず消えてしまうものなのだ。老いと死とは、彼リヴィエール以上にむごたらしく、それを破壊する。このことを思うなら、個人的な幸福よりは永続性のある救わるべきものが人生にあるかもしれない。とすると、人間のその部分を救おうとして、リヴィエールは働いているのかもしれない?もちろん、時をこえた素晴らしいメッセージなのだと思います
冒頭でアンドレ=ジッドが絶賛していたのもしかり
けれど私には少々肩の凝ってしまう小説で、むしろ共に収められていた処女作「南方郵便機」の方に強く惹きつけられたのでした
「南方郵便機」は、『星の王子様』のようなロマンチックな描写もありながら、大人だからこそ分かる恋の虚しさなどをも描いていて、なんとも美しいのです
ロマンチックな描写はたとえば冒頭から
水のように澄んだ空が星を漬(ひた)し、星を現像していた。しばらくすると夜が来た。サハラ砂漠は月光を浴びて砂丘へと広がっていた。僕らの額の上には、物の形を示すというではなしにむしろそれを組み立て、それぞれの物にやさしさを添えて見せる月の光がさしていた。ああもう…
サハラ砂漠で月と月に照らされているものたちを観ずには死ねないような気持ちになってくるではありませんか…
実はあとがきで、訳者の堀口大學氏が『夜間飛行』よりも『南方郵便機』のほうが傑作だと思うという旨を記しておられました
感じ方は人それぞれなので勿論「夜間飛行」をこき下ろすつもりはないのだけれど、自分と同じ感じ方をしている人がいたということが嬉しかったな
1人の作家といえど、人間が多層的な存在であるのと同様に種々の作品があるのだなと思わされたのでした