平成11年8月1日発行
(平成9年6月に朝日新聞社より刊行)
新潮社 ¥590(税別)
1982年の「日刊アルバイトニュース」連載のコラムから続いている、村上春樹さんの文と安西水丸さんの挿絵によるエッセイシリーズです
以前に「村上朝日堂」を冠した別のエッセイ集を読んだ時には、小説とはちがってひたすらにゆるく、読者としてもとことん肩の力をぬいて読んでよいのだという印象を受けました
が、本作にはもう少し、教訓的な内容も
本作執筆時の村上さんの年齢は48歳
歳を重ねていったことによる変化ともいえるのでしょうか
まあ、軽い村上さんも、さりげなく人生の深淵に触れるアドバイスをしてくださる村上さんも、どちらも好きなのですけどね
ということで、今回感じ入った箇所の1つをご紹介
何かを非難すること、厳しく批評すること自体が間違っていると言っているわけではない。すべてのテキストはあらゆる批評に開かれているものだし、また開かれていなくてはならない。ただ僕がここで言いたいのは、何かに対するネガティブな方向の啓蒙は、場合によってはいろんな物事を、ときとして自分自身をも、取り返しがつかなくなるくらい損なってしまうということだ。そこにはより大きく温かいポジティブな「代償」のようなものが用意されていなくてはならないはずだ。そのような裏打ちのないネガティブな連続的言動は即効性のある注射漬けと同じで、一度進み始めるとあとに戻れなくなってしまうという事実も肝に銘じておかなくてはならないだろう。
村上さんのエッセイやインタビュー記事などを読んでいると、「この人はなんて自己管理能力に長けた人なのだろう」と思うことがしばしばあります
上の言葉を読んだ時にも、同じ思いに
村上さん
優れた小説家であるのみならず、人としても、本当に尊敬してしまいます
優れた小説家だから人間としても優れているのかな?
人間として優れているから優れた小説家たり得るのかな?
…
まあ、いずれにせよ、まだ読んでいない村上作品はたくさんあるので、これからも読み続けて色々なことを吸収させていただこうと思います
本作のあとがきを読むと、村上さんはこのエッセイの執筆を、地下鉄サリン事件の被害者のインタビューと並行して行っていたそう
そのインタビューがまとめられたのが『アンダーグラウンド』という作品です
非常に分厚くて、精神的にも辛くなりそうだと容易に想像される本ではあるけれど、なんだか読むタイミングがやってきたような気が
今年の冬休みに挑戦してみようかな
ゆく年は、村上作品を楽しんだ1年でした
来る年もまた、村上さんの作品からたくさんのことを学べる1年となりますように
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