1999年10月10日初版発行
文藝春秋 ¥419+税
村上さんが1991年から1996年にかけて発表した7作の短篇が収められています
まず感じたのは、本書は村上さんの作品の中でも特に感覚に訴える作品が多いということ
改めて考えてみると、どの作品でも背筋がぞわっと寒くなるような瞬間が
「七番目の男」に登場する嵐の中の波などは、かなり怖かったなぁ
もしかしたら、表題作が「レキシントンの幽霊」であるように、幽霊に遭遇した時のような気持ちにさせる作品が集められているのかもしれないな、とも思いました
そして、最近村上さんと川上未映子さんとの対談を読んでいたら、本書の中の「緑色の獣」が言及されていたことを発見
もう1度ぱらぱらと読み返していたら、緑色の獣のさまが非常におどろおどろしく描かれているのだけれど、同時にしゃべり方や心根などがとても可愛らしくて、気づけば虜になっていました
たとえば彼の愛の告白はこんな調子
ねえ奥さん、奥さん、私はここにプロポーズに来たですよ。わかるですか? ずつと深い深いところからわざわざここまで這い上がつてきたですよ。大変だつたですよ。(中略)私は深い深いところであなたのことを想つておつたんですよ。それで我慢がきかなくなつて、ここに這い上がつてきたたたですよ。みんなとめたですよ。でも私は我慢ができんかつたですよ。結構勇気もいりりましたよ。お前つみたしな獣が私にプロポーズするなんて厚かましつて思われるんじやないかつてねえ。きゅん…
この壊れたレコードのような言い方
何て可愛いのでしょう
さらに獣はいかつい見てくれながらも奥さんに疎まれるとどんどんしょぼくれてしまう
そんな姿も愛おしいのです
同じ村上作品の羊男や、最近の作品だと騎士団長にも通ずるところがあって可愛いなぁ
村上さんの作品の魅力はたくさんありますが、その1つが不格好かわいい登場人物の存在なのではないかとも感じました
何度読み返しても萌えポイントがある作品集
ずっと大切にしてゆこうと思える1冊です